第四話 「西条の今後のキャリアはどうなる? 経験からひも解く自分の特性じ」
オリジナルコラム
2020/12/04

「田村さん、よろしくお願いします」
西条はそう言うと事前に提出したレジュメに沿って淡々と説明を始めた。
6年前に、現在のECモールの営業職として中途入社。
1年目に新人賞を受賞。
しかしその後4年の間、地道な活動や時には斬新な企画を立ててみたが、営業成績は凡庸な水準に留まっていたこと。
それが本年、既存担当ショップの頑張りで目標比200%の達成率で四半期アワードを獲得したとのことであった。
四半期アワード獲得の原動力となったショップは、2年の説得を経てモールに出店した調理雑貨専門店だった。
その間西條は、モールに出店している同業の平均売上推移のデータやインターネットビジネスの可能性、売上管理の利便性、はたまた顧客データ保護の体制説明など様々な切り口でアプローチを続けた。

「顔の見えない相手と商売をしたくない。」
となかなか納得しなかった社長。
しかし最終的には西条の根気に負けて出店した。
1年後社長が退き、当時専務だった息子が社長に就任。
息子である現社長と西条とは、とても気があった。
各種キャンペーンの効果もあり調理雑貨店のECビジネスは順調に走り始めた。
ECモールに出店意向を持つ他の店舗を紹介してくれたりもした。
そうした中コロナウイルス感染拡大の中、自宅で過ごす時間が増え自炊を始める人が増え、その結果、調理雑貨店は売上を前年同期比3倍にしたのだった。
いつの間にか西条が発する言葉の一つ一つに熱がこもっていた。
ひとしきり話を聞き終わった田村はこう言った。
「いやぁ、調理雑貨店のお話し、面白いですねぇ。こういう代替わりをきっかけにECモールへの取り組みが激変する企業さんは多いのですか?」
「以前は多かったと聞きますが、最近では珍しいですね。インターネットを嫌う社長さんは、今でもいらっしゃいます。その場合、息子さんやお子さんが別会社を立ちあげて、そちらをネット専業にするケースがほとんどです。」
「そうですか。では、この西城さんの調理雑貨店のお話は、上司の方も喜んだでしょう。
別会社をたてるわけでもなし、普通だったら諦めてしまうところを、2年がかりのアプローチで出店に結び付け、コロナの中で売上を3倍にしたのですから。
西条さんのファイティングスピリットや粘り強さに周りの方も一目置いたのではないでしょうか?」
「どうでしょうかね。職場では営業成績以外のことで、評価を受けることはないので分かりません。
とはいえ、言われてみると上司からもそう、認識されているのかもしれせん。
というのも、中途入社の方が入ってくるたびに私がトレーナーに任命されるのです。
年上の新入社員が入ってくることも多いです。
年下の私の教えを素直にきいてくれる人ばかりではありません。
機嫌を損ねないように辛抱強く教えないといけないんです。
ちなみに、この仕事は困ったことに、評価には全く結びつません。
ですから、本音をいうとトレーナーは、出来る限り受けたくない仕事です。」
「ところで西条さん、『ジョハリの窓』をご存じですか?」
「いいえ?何ですか、それ。」
ジョハリの窓とは、アメリカの心理学者が考えた自己分析の手法だ。

「今後のキャリアを考える為にも、この分析方法を使って見ましょう。」

「西条さんは、満足できる成績が出ないときも、工夫して粘り強く営業していましたよね。
だから『根気強い』『挑戦する』という資質は、西条さんご自身も、他の方もご存知なので『開放の窓』に入ります。
一方で、他の方には見えているけれど、ご自身では認識していない点は「盲点の窓」に入ります。」
(続く)
ストーリー:かみきち
イラスト:みむら
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